大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和50年(タ)77号 判決

原告

山本陽子

右訴訟代理人

高野国雄

被告

山本誠次

被告

小河友子

主文

一  原告と被告山本誠次とを離婚する。

二  原告と被告山本誠次との間の長男卓雄(昭和三九年六月二五日生)、二男厳(昭和四一年六月二二日生)、長女伸子(昭和四三年八月一九日生)の親権者をいずれも原告と定める。

三  被告山本誠次は原告に対し、金六〇〇万円(金一〇万円の限度で被告小河友子と連帯)を支払え。

四  被告小河友子は原告に対し、金一〇万円を被告山本誠次と連帯して支払え。

五  原告の被告小河友子に対するその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用中、原告と被告山本誠次との間に生じたものは全部同被告の負担とし、原告と被告小河友子との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を同被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

原告は、主文第一ないし第三項(但し、第三項の( )書を除く。)と同旨ならびに「被告小河友子は原告に対し金一〇〇万円を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告(昭和八年四月六日生)は、昭和三八年春ころ、被告山本誠次(昭和一八年一二月一二日生。以下、被告誠次という。)と婚姻を前提に同棲し、同年一二月挙式し、翌昭和三九年六月二五日婚姻の届出をした。二人の間には、長男卓雄(昭和三九年六月二五日生)、二男厳(昭和四一年六月二二日生)、長女伸子(昭和四三年八月一九日生)の三人の子がある。

二、婚姻当初、被告誠次はダンプの運転手をしていたが、昭和四一年個人で土建業をはじめ、昭和四四年有限会社山本産業(資本金一〇〇万円)を設立し、事業を会社組織に改めたが、右会社は昭和四九年一一月倒産し、その後同被告は、個人名義で土建業を営んでいる。

原告は、同被告が土建業をはじめてから、家事のほか、自宅である札幌市西区○○○条西○丁目三五七番地の借家に住み込んでいた従業員(二〜三人)の食事等の世話、電話の応対、伝票整理などして献身的に同被告の事業を手伝つてきた。

三、被告誠次は、女ぐせが悪く、次々と女と不貞な関係を結んだ。(原告は、被告誠次と同居中、同被告が他の女からうつされた性病をうつされ治ることがなかつたくらいである。)

1  昭和三九年三月ころ、被告誠次は、原告が実家にもどつた留守中に、行きつけのガソリンスタンドの女事務員を自宅に引き入れ泊めた。

2  昭和四五年ころから、同被告は、田中組という土建会社の女事務員と二年間位肉体関係を続けた。同被告は、この頃から外泊を繰り返すようになつた。

3  昭和四七年ころから、被告誠次は、札幌市西区○○のキヤバレー「○○○」のミエ子というホステスと原告とは別れるなどと約束して二年間位肉体関係を続けた。右ホステスは昭和四八年春ころ、原告らの自宅に乗り込んできたことがあつた。

4  昭和四八年八月ころから、被告誠次は別の札幌市西区○○のキヤバレー「○○」のホステスをしている被告小河友子(以下、被告小河という。)と深い仲になり、同被告は、札幌市西区○○に借家を一軒借り同棲するようになつた。

四、被告誠次は酒好きで酩酊して帰宅しては原告にあたりちらし、原告の意見をきき入れず、しばしば原告を殴る蹴るして暴力を振つた。

五、原告は、これまで子供のためを考え、被告誠次の改心を望んで我慢してきたが、これ以上しんぼうできず、昭和五〇年七月二八日、その前日に右被告から「出ていけ」と怒鳴られ、足蹴りにされるなどの暴行を受けたのを機会に離婚を決意し、三人の子を連れて家を出、一時○○の実兄佐藤良雄方に身を寄せ、昭和五〇年八月下旬から苫小牧市○町一丁目一二番一三号にアパートを借りて生活したが、右被告は、原告が別居した後間もなく被告小河を自宅に引き入れて一緒に生活した。

六、以上のとおり、原告と被告誠次との婚姻関係は完全に破綻した。よつて、原告は、同被告との離婚を求めるが、三人の子供は、原告になついているし、子の幸福のために、原告がその親権者になるのが適当である。

七、ところで、原告と被告誠次との婚姻が破綻した責任はあげて被告誠次にある。したがつて、同被告は、原告に対し、原告の精神的苦痛を慰藉するために、金三〇〇万円の慰藉料を支払うべきである。

八、被告誠次は、札幌市西区〇〇一九七番一〇雑種地三三〇m2(時価五〇〇万円相当)を所有しているほか、建設用重機、車両を二、三台所有している、而して、二人の間の婚姻期間が一二年余であること、今後原告が幼い三人の子供達を養育していかねばならない生活維持の困難さ等を合せ考えると、被告は原告に対し、財産分与として金三〇〇万円を支払うべきである。

九、被告小河は、被告誠次に妻子があるのを知りながら、あえて二年以上も不貞な関係を続け、原告らの家庭を破壊し、積極的に原告の追出しをはかつた(被告小河は、昭和五〇年七月中旬、原告に電話で「離婚届に印をついたか」などと言つてきた。)。

よつて、被告小河は原告に対し、共同不法行為者として被告誠次と連帯して金一〇〇万円の限度で慰藉料を支払う責任がある。

と述べ、〈証拠関係略〉。

理由

一〈証拠〉を総合すると、請求原因第一、第二項、第三項序文および同項第1・第3号、第四項各記載のとおりの諸事実ならびに被告誠次が原告主張のとおりの財産を所有していること、原告と被告誠次との間の子供三人はいずれも原告になついていることのほか、さらに次のとおりの諸事実を認めることができる。

昭和四九年一一月末、被告誠次は、キヤバレー「○○」に客として赴いたが、たまたまその頃、同被告の経営していた有限会社山本産業が倒産したため悪酔いし、物を投げつけたりしたが、当時同キヤバレーでホステスをしていた被告小河が、「頑張つてやりなさい。」などと温かい言葉をかけて励ましてやつたため、被告誠次は、原告が勝気な性格で日頃から右被告の態度を非難するばかりで気の休まる思いを経験していなかつたこともあつていたく感激し、被告誠次と同小河とは、以後急速に親しさを増すことになつた。その後、被告誠次は、同小河をモーテルに連れて行つたところ、右小河が入るのを嫌がつたため、被告誠次は右小河に乱暴をし、そのため警察沙汰になつたことから、右二人の仲は、被告小河の夫訴外小河三郎の知るところとなつた。被告誠次は、右訴外小河三郎に対し、被告小河をくれと言い出し、右両者が二・三度話合つた結果、訴外小河は被告誠次に対し被告小河をくれてやると申向けたことから、被告小河は、訴外小河三郎と離婚する決意をして同人の家を出、被告誠次に妻子があるのを知つてはいたが、同人の借りてやつた○○所在のアパートに昭和五〇年四月から同年六月まで、同人と共に同棲した。

一方、原告は、婚姻当初から、被告誠次の女性関係が絶えないこと等にも、子供のことを考えがまんを重ねてきたのであるが、昭和五〇年七月二七日、原告が右被告の生活態度をとがめたこと等から大けんかとなり、右被告から「出ていけ」と怒鳴られ足蹴りにされるなどの暴行を受けたのを機会に離婚を決意し、三人の子供を連れて家を出、一時○○の実兄佐藤良雄方に身を寄せ、昭和五〇年八月下旬から、苫小牧市○町一丁目一二番一二号にアパートを借りて生活するようになつた。そして原告は、同年同月、被告誠次との離婚を求める調停の申立を行い、不調に終つたため、同年一一月五日訴を提起するに至つたものである。

この間、原告に家を出られた被告誠次は、被告小河に対し、「原告に金を持つて出られた。今後どうしてやつていいか困つている。」等と申向けて被告誠次方に入るよう懇請し、被告小河もこれを受けて昭和五〇年八月二七日、被告誠次方に入つて一緒に生活するようになつた。しかし、被告誠次は酒ぐせが悪く、酒を飲むと何の理由もなく暴力をふるい、被告小河は、肋骨四本にひびが入つたり、目をぶたれて角膜乱視になるなどしたため、昭和五一年三月、被告小河は、一たん被告誠次方を出たが、同人の懇請で再び戻つたものの、同人の暴力は治らず、被告小河は、昭和五一年六月一八日再び家を出て、一時同人の姉の家に隠れたが、同年七月初め、右姉夫婦の口ききで、被告小河は、結局、夫訴外小河三郎の下に戻つた。

他方、原告は、昭和五一年六月、被告誠次の意を受けた訴外○○某に、被告誠次は被告小河ときれいに別れた、子供のこともあるし戻つてやつてはなどと言われて、三人の子供を連れて被告誠次の下に戻り一緒に生活を始めた。

しかしながら、右両者の仲はうまくいかず、夫婦関係もなく、本件口頭弁論終結時たる昭和五一年一一月一八日に至るまで、右両者が信頼関係を構築しうる見通しは全くなく、もはや、右両者の婚姻関係は破綻したものと断定せざるを得ない。

二右認定事実によれば、被告誠次に対して離婚を求める原告の本訴請求は、民法七七〇条一項一号、五号に照らして理由のあることは明らかであり、三人の子供達の親権者は、右子らの幸福のためいずれも原告と定めるのが相当である。

三次に、被告誠次に対する金員の支払請求について按ずるに、本件離婚に至るべき責任の大半が被告誠次にあることは、前示認定事実に照らして明らかであり、同被告は原告に対して、その苦痛を慰藉するため金三〇〇万円を支払うべきであり、また、右被告の財産状態、婚姻期間、今後原告が幼い子供達三人を養育していかねばならない困難さ等諸般の事情を総合考慮すると、財産分与としてさらに金三〇〇万円を原告に対して支払うべきである。

四次に、被告小河に対する慰藉料請求について判断する。同人は、被告誠次に妻子があるのを知りながら不貞の関係を続けたことは前示のとおりであり、右行為により原告に対して精神的苦痛を与えたことについて、被告誠次とともに、共同不法行為者としての責任を負うべきことは明らかである。

而して、前記被告誠次の原告に対して支払うべき慰藉料金三〇〇万円のうち、被告小河との共同不法行為に基づく部分は八〇万円と解するのが相当である(被告誠次の女ぐせの悪さは結婚当初からのもので、今日まで何人もの女性と不貞な関係を続けてきたこと、また被告誠次は原告に対してたびたび殴る蹴るの乱暴をしたこと等被告小河と無関係のことに起因する部分を控除した)。

ところで、共同不法行為の成立が認められても、ある加害者の行為もしくは結果に対する関与の度合いが非常に少い場合で、かつ、そのことが証明されている場合には、その者については、右関与の度合いに応じた範囲での責任のみしか負わすことができないものと解すべきである。これを本件についてみると、被告誠次は、被告小河との不貞な関係の招来およびその維持について常に主導権を握つており、被告小河はただこれに服従したにすぎないともみられること、少くとも現在は、被告小河は被告誠次と別れ夫の下に戻つたこと、被告誠次との関係を生じたことで被告小河自身の心身もかなり傷ついたこと等を考慮すると、被告小河の責任は、前記共同不法行為部分の八分の一すなわち金一〇万円に相当する部分に限られるものというべきである。

よつて、原告の被告小河に対する請求は、金一〇万円の限度で被告誠次と連帯して支払うべきものとする限り理由があるから右の限度で認容し、その余は失当として棄却することとする。

五〈以下、省略〉

(増山宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例